ホーム > 寺院めぐり > 笑顔と出会う寺めぐり > 日蓮聖人の危機を追体験する湘南・江ノ電の旅!

笑顔と出会う寺めぐり

  • 記者プロフィール
  • バックナンバー

日蓮聖人の危機を追体験する
湘南・江ノ電の旅!

 前回に引き続き、鎌倉~江ノ島エリアの日蓮聖人ゆかりの地を訪ねます。
今回辿るのは、約750年前に日蓮聖人を襲った「龍ノ口の法難」にまつわる史跡の数々。
日蓮聖人の波乱万丈な人生を象徴するようなエピソードが次々に飛び出します!

 

迫害の引き金は「雨乞い勝負」 ? !

今回の旅の楽しみは、なんといっても江ノ電!
ちいさな電車にガタコト揺られ、風景を楽しみながら、見所を巡ります。最初に降り立ったスポットは、江ノ電・極楽寺駅。あじさいで有名な極楽寺ですが、実は日蓮聖人と深い関わりがあるのです。

今から約750年ほど前、鎌倉は深刻な日照りに見舞われたそうです。そこで幕府の命を受けた極楽寺の僧・良観房忍性は、加持祈祷で雨を降らせることに。一方、加持祈祷に頼る政治そのものに批判的だった日蓮聖人は「加持祈祷で雨を降らせることはできない」と断言。ついに両者がその言い分の正否をかけて、ここ極楽寺で「雨乞い勝負」をすることに!…結果は、日蓮聖人の勝利。雨は降らなかったそうです。
しかしこの勝負がきっかけで、敗れた良官房が日蓮を捕らえるべく幕府へ訴状を提出し、佐渡流罪が決定してしまうのです。しかも流罪のはずがなぜか江ノ島にある龍ノ口の刑場に連行され、あわや斬首…… ? ! という日蓮聖人絶対絶命のピンチ「龍ノ口の法難」を招く事態に。「立正安国論」などの幕府へ諌言も迫害の大きな原因だとは思いますが、勝負に勝ったのに殺されそうになるなんて理不尽な話ですよね。

極楽寺から長谷方面へ5分ほど歩くと、山を削り道を通した「切通し」に到着。緑に覆われた崖と潮風のせいか、ひんやり心地よい古道です。
この極楽寺の切り通しや、江ノ電の辿る海沿いのルートは、鎌倉から江ノ島まで連行される際、日蓮聖人が通った道といわれています。

さらに歩いていくと、小さなお客さんで賑わう和菓子屋さんを発見。「力餅屋」ののれんに老舗の風格が漂います。名物はつきたての餅を餡でくるんだ素朴なお菓子、その名も「力餅」。近くの御霊神社に祭られる鎌倉権五郎景政にちなんだお菓子だそうです。子供たちの列に混じって、早速私もお土産を購入しました!

連行される道のり…
あまりに絶望的な状況に、
私ならパニックになりそう。
日蓮聖人は一体どんな気持ちで
この景色を眺めたのでしょうか……?

九死に一生を得た刑場跡・龍口寺

長谷駅から江ノ電で移動し、江ノ島駅へ。シンボルのタワーがそびえる江ノ島方向へ…は行かず、逆方面へ進み龍口寺に到着。龍口寺貫首の本間上人に、お寺に残る逸話をうかがいました。

「ここはかつての処刑場で、日蓮聖人もここでまさに首を切られる寸前でした。しかし、現在の江ノ島の方向から“月のような光りもの”が飛来し、役人たちの目を眩ませたため、役人たちはそのまま恐れおののいて逃げてしまい、死刑は執行されなかったのです。連行される時、鶴岡八幡宮で日蓮聖人が「八幡大菩薩!あなたは法華経を信仰する者を守る使命があるのに、なぜ私を助けないのか」と叱咤したそうですから、八幡さんがこれはなんとかせねばと不思議な力を使われたんじゃないですかね(笑)。
死を覚悟するほどの苦難を体験された日蓮聖人は、法華経の中でお釈迦さまが説かれているとおりの伝道の姿(=末法の世でさまざまな苦難が降りかかる中、正しい教えを広める上行菩薩の姿)を自身が体現していることを、実感されました。即ち、これを機に、自分が上行菩薩の再誕(生まれ変わり)だという自覚を持たれたのです。このために、龍ノ口の法難以前の“龍前”と以後の“龍後”で、日蓮聖人の心の持ちようなどが変わりました。それくらい、龍ノ口法難はご生涯で最も大きな出来事だったのだと思いますよ」

続いて、お寺に伝わる伝説の鍋蓋を特別に拝見。日蓮聖人が龍ノ口に連行されるとき、老女が最後の供養にと鍋蓋にぼたもちをのせて差し出したという逸話に登場する鍋蓋といわれています。老女のお話をしていると、本間上人がこんなことを教えてくれました。
「日蓮聖人は、女性をとても大切にする方なのです。女性信者の悩みに答えた手紙には、相手の立場に立った優しい心遣いが記されていますし、特に母上への感謝はことのほか大きかったようです。男の仕事は女の仕業なりといいますが、男性が何かを成す陰には必ず女性の力がある。当時としては珍しいことですが、女性の立場を尊重していたんですね」
現代でこそ浸透している思想ですが、一般女性の地位が低かった当時のことですから、女性はさぞかし嬉しかったでしょうね!

私を気遣いながら
分かりやすくお話してくれた本間上人。
ご自身も女性をとても
大切にしていることが伝わってきます。。

地元の人々が生んだ新たな伝説?!

龍口寺の山門を通りかかると、数人の男性が何やら熱心に上を見上げて感心しています。
「何を見ているんですか?」と聞いてみると、山門に彫られた龍とのこと。よく見ると、西洋のドラゴンのように翼が生えた龍が二頭!珍しさに、つい目を奪われてしまいました。金箔の施された目や口の朱がまだ残っており、生々しい迫力があります。

「いやあ、先日町の人や子供たちとここで太鼓の稽古をやっていたらさ、掛かってた額が突然外れたんだよ。それで、額の後ろに隠れてた彫り物に初めて気づいたんだ。子供たちなんて、『龍だ!』『目が光ってる!』って大騒ぎだったよ。額は90年前の御法難650年の時に作られて以来、ずっと外されたことはないから、町の人は誰も知らなかったんだね。格好いいでしょう?」
龍口寺の関係者?と勘違いしてしまうほど詳しくお話を聞かせてくれた飯倉さん、森下さんは、たまたまお寺の修理に来ていた地元のとび職さん。お寺のイベントなども精力的にやっているそうです。
「龍口寺の観光?だったら、9月12日のぼたもち法要に来なきゃ!夕方と深夜の法要の後でつきたての“首つなぎ”のぼた餅を投げて、大勢の人で盛り上がるんだから」
地元の方々が日頃から「俺たちのお寺」と愛情を持って龍口寺に接していることが、ひしひしと伝わってきます。

法要時の“首つなぎ”“難よけ”のぼた餅の代わりに、お寺で売っている牡丹餅クッキーを食べてみることに。牡丹餅なのにクッキー?とやや不思議に思いますが、おかきのようにさっぱりしていて、とっても美味しい!難除けにもなるかも?!

若いお兄さんにも愛されている
地元のお寺って、
なんだか素敵ですよね。

老女の決死の信仰を伝える“ぼたもち寺”

江ノ電の旅を終え、ここからは鎌倉を歩いて散策します。まず訪ねたのは、“ぼたもち寺”の愛称で親しまれる常栄寺。こじんまりとした敷地に草花が所狭しと植えられ、不思議と心和むお寺です。ここは、日蓮聖人にぼたもちを捧げたといわれる老女が住んでいた場所。常栄寺のお上人が、こんなお話を聞かせてくれました。

「境内の絵から想像できるとおり、多くの兵に連行される日蓮聖人を引き止めて食べ物を供えるのは、相当危険な行為。しかも鍋蓋で供えるくらいですから、準備する時間もなかったんでしょう。しかしその女性は、危険を冒してでも、日蓮聖人の最後の供養にできるだけのことをしたかったんですな。信仰が命がけだったわけです。
その後、日蓮聖人が助かったことで“首つ(な)ぎのぼた餅”と言われるようになり、今でも9月12日の法難会には祖師像にぼた餅を供えています。うちは何しろ『ぼたもち寺』ですから、いつでも餅を出しているのかと勘違いされますが、皆さんに食べていただけるのはこの日だけ(笑)。
それにしても、日蓮聖人の使命感はすごいでしょう。ご生涯で危険にさらされた『4大法難』のうち、3つが鎌倉で起きている。命が惜しかったら、2度とそんな土地へは戻りたくないはず。しかし日蓮聖人は、伊豆や佐渡へ流罪になっても再び鎌倉に戻り、布教を諦めなかったのですから、信念の強い方です」
本当にそのとおりですよね。「立正安国論」に代表される幕府への命がけの諌言は、3度にわたったそうですから、凄まじい信念です。

ちなみに、当時のぼた餅は餅に胡麻をまぶしただけの質素なものだそうですが、常栄寺の法難会で振舞われるぼた餅はしっかり甘いそうです。これはぜひ再訪して味わってみなければ!

ぼた餅の心温まるエピソードの裏には、
老女の決死の思いがあったんですね…

鎌倉・最後の布教の地へ

続いて、常栄寺のすぐ近くに位置する妙本寺へ。こちらは常栄寺とはまた違う趣きのある、大きなお寺です。参道に幼稚園があるためか、小さな子供とお母さんがのんびり散歩する姿も。境内は、心落ち着く静寂に包まれています。
妙本寺は、龍ノ口の法難後に佐渡流罪となった日蓮聖人が再び鎌倉に戻った際、布教の拠点とした場所です。山門脇には、鎌倉開教の碑が。日蓮聖人の教えは、この地から本格的に全国へとが広まっていったのですね。

続いて今回の旅のラストを飾るのは、本覚寺。日蓮聖人が鎌倉に戻った際、40日あまりを過ごしたといわれる夷堂があります。この夷堂は由緒が深く、鎌倉初期からあるそうです。この辺りは船から荷をあげる港で、市がたっていたため、商業の神でもある夷様は市の守護神として町民の信仰を集めてきたんですね。そのため本覚寺は、私のように日蓮聖人ゆかりの地を辿る人だけでなく、商売繁盛を願う人で賑わっていて、とても楽しい雰囲気でした。

最後にタクシーで鎌倉駅に戻る道すがら、運転手さんにぼた餅の話をしたところ、「ぼた餅供養の餅はね、本当は握り飯だったんだ。それを尼が落っことしちゃって、泥まみれになった。それでも日蓮さんはありがたく頂戴して、泥まみれの握り飯をふところに入れたそうだよ。それが“胡麻をまぶしたぼた餅”という話になったのさ」という新説が!真偽はもちろん不明ですが、町の人が大切にしているエピソードだけあって、さすがに人を惹きつける“日蓮像”です。旅の締めくくりに、思わず人に伝えたくなるような伝説が聞けて大満足です!

狭いエリアにかたまっていて訪ねやすい
常栄寺・妙本寺・本覚寺。
それぞれ全く違う魅力があって面白い!

正しい教えを広めるのが
いかに困難だったかを実感しました!

第2回、第3回と鎌倉周辺を巡ってきましたが、日蓮聖人の人生の波乱万丈ぶりに、ただただ驚きの連続!正しい教えを人々へ伝える、国を諌める、ということがいかに困難な道だったか、ようやく理解できたような気がします。でも幕府や他宗派の僧がこれだけ妨害したにも関わらず、法華経が全国に広がったことを考えると、やっぱり日蓮聖人の教えには人々が本当に求めていた“救い”があったんでしょうね。
また龍口寺で出会った方々やタクシーの運転手さんとのお話から、“お寺”や“信仰”は、それを大事にする人がいてこそ生きてくるものなんだな~と実感しました。
それにしても鎌倉は、日蓮聖人が一番長い時期を過ごしただけあって、2度の旅でもまわり切れないほど。見応え十分でした!

旅のしおり

今回うかがったお寺とお店

龍口寺(神奈川県藤沢市片瀬3-13-37)

人気の牡丹餅クッキー(500円)は、大本堂にて販売中です。

常栄寺(神奈川県鎌倉市大町1丁目12-11)

妙本寺(神奈川県鎌倉市大町1-15-1)

本覚寺(神奈川県鎌倉市小町1-12-12)

力餅家(鎌倉市坂の下18-18 TEL:0467-22-0513)

9:00-18:00 定休日/毎週水曜日・第三火曜日