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笑顔と出会う寺めぐり

第5回

第5回

日蓮聖人を支えた人々の
熱い思いを知る佐渡の旅 !

 前回は、佐渡へ流されても志を曲げることなく次々と大業を成した日蓮聖人の軌跡を追いました。今回は引き続き佐渡を旅しながら、そんな日蓮聖人に出会い、教えに触れ、人生を変えた土地の人々の逸話に迫りたいと思います。

 

佐渡の美味しい朝ごはんに舌鼓!

第4回に引き続き佐渡を巡る今回の旅は、真野エリアにある旅館「伊藤屋」さんからスタートしました。佐渡のお宿・朝イチのお楽しみといえば、何といってもお米どころ・佐渡ならではの美味しいご飯。炊きたてツヤツヤのお米は、しっかりした食感と甘みがたまりません!!名物のイカそうめんもついてきて、朝から大満足です。
宿のご主人によると、こちらのご飯は、地元・佐渡の棚田で作られているコシヒカリ。平地と違い、棚田では山のミネラル豊富な湧き水を使うから、とっても美味しくなるのだとか。
そして、佐渡といえば有名なのが朱鷺(トキ) 。絶滅寸前といわれた朱鷺を増やし、共生するため、最近は米作りをしている田んぼにもいろいろと工夫を凝らしてることを教えてくれました。お米と朱鷺?!一体どんな取り組みなのでしょうか。急遽、旅程に田んぼを加えて、あとで見学してみることに。
本日の旅程は、前回の「流罪となった日蓮聖人の足跡」とは趣向を変え、日蓮聖人という人物に触れた周囲の人々が、どのように変わって行ったのかを追っていく予定。佐渡という土地の魅力にも迫りつつ、のんびり楽しみたいと思います!

佐渡のお米はやっぱり、美味!!

ひとりの老人の功績を今に伝える五重塔

まず向かったのは、宿と同じく真野地区にある妙宣寺。扁額にはこの寺を開いた人物の名「阿仏房」の文字が。阿仏房とは、佐渡で最初に日蓮聖人の信者となった人物です。
「阿仏房は、順徳上皇に供奉して佐渡に渡った北面の武士でした」そう教えてくれたのは、住職の関上人です。
「阿仏房は当時、熱心な念仏の信仰者で、崩御した天皇の成仏をひたすら願っていた。だから念仏を否定しているという日蓮とやらを切り捨てるつもりで、塚原を訪ねたんですな。しかし日蓮聖人のお人柄や深い知恵、そして自分の悟りの浅さを知り、改心したのです。その後、塚原へ足しげく通い食べ物を届けたりと献身的にお世話をしたことはとても有名です。
この時、阿仏房は84歳。日蓮聖人がその後山梨県の身延山に移られても、91歳で亡くなるまで3度身延へと足を運んでいます。その交流はたった7年と短い期間でしたが、とても強い間柄で結ばれた師弟関係だったのですよ」

佐渡から身延への道のりは、当時なら片道半月以上かかったはず。90代で訪ねるなんて、ものすごいガッツ……!なんだか阿仏房さん、一度決めたらやりぬくような、実直な方のようですね。
「日蓮聖人はね、その人柄を指して『阿仏房さながら宝塔(=仏塔)、宝塔さながら阿仏房〈阿仏房こそ生きた仏身、宝塔なのだ〉』と賞賛されています。それほど信仰心が厚く、徳の高い人であったようです」

妙宣寺といえば五重塔が有名。江戸時代に建てられたこの五重塔は、建築的にも価値が高く、国の重要文化財に指定されているものだそうです。
「実はこの宝塔(五重塔)は、得の高い阿仏房を称えたものなのですよ。
元々ここには阿仏房を祀ったお堂があったのですが、1730年頃にはそれが朽ちたため、寺の25代目の日念上人がお堂を塔として再建する計画を奉行に提出しました。ところが貧しい世の中にあって、贅沢すぎると批判を受け、日念は処罰されてしまったのです。しかし阿仏房の徳を称える塔の計画は代々受け継がれ、約100年後についに完成した訳です。確かに贅沢ですが、これがあるおかげで今なおこれだけ多くの方が参拝し阿仏房を称えることができるのですから、とても大切な意味を持つ塔なのです」

日蓮聖人を師と仰ぎ献身的に支えた阿仏房の人生、そしてここ妙宣寺で阿仏房を称え続けた歴代の住職の思いが、この塔につまってるんですね。

よく手入れされた境内には
たくさんの参拝者が。
皆さん、五重塔をバックに
記念写真を撮っていました。

島で最初にできた、日蓮宗のお寺

妙宣寺から遊歩道をのんびり歩いた先にあるのが、世尊寺。これまで見てきたお寺の風情とは違い、まるで民家のような素朴な雰囲気です。

世尊寺は、国府(こう)入道のお寺。
国府入道とは、阿仏房と親交が深く、同じ時期に日蓮聖人に出会い帰依した人物。阿仏房が日蓮聖人に食事を届けていたことを理由に処罰された折には、国府入道が献身的に給仕をしたといわれているそうです。
根本寺で日蓮聖人の塚原の生活を知った時、なぜ食事も与えられずに生き延びることができたのか不思議に思いましたが、こうした幾人もの信徒たちの支えがあったからこそなのですね。

ところで国府入道は、世尊寺の開山ではなく、3祖(3代目)。そこにはまた別の人物のドラマがありました。主人公は、順徳天皇お付の武士だった遠藤藤四郎盛国。この人物は、天皇が崩御した後も島に留まることを決意し、佐渡で上皇の冥福を祈り続けていたそうです。なんだか、阿仏房に似た経歴です。そして日蓮聖人と運命的な出会いを果たし、帰依。その際、日蓮の弟子・日興上人を開山と崇め、自分は2祖として世尊寺を開いたといわれています。ということは、開山も2祖も3祖も、同じ時代に生き、直接日連聖人に触れた人物たちなのです。
世尊寺は、佐渡における日蓮宗初めての道場として布教の拠点になったそうです。日蓮聖人に直接教えを受けた遠藤四郎盛や国府入道の思いが熱く、純粋だったからこそ、島の人々に届きやすかったのかもしれませんね。

日蓮聖人が佐渡を離れた後は、
この地に留まった信者たちが
熱い思いを持って
島に法華経が広めたんですね。

人形劇で当時の雰囲気を体感!

続いて、佐渡歴史伝説館を訪ねました。ここでは、佐渡に残る歴史や伝説を、実物大のロボット人形劇で楽しめます。予想外にハイテクなだけでなく、実物大のセットは臨場感たっぷり。もちろん、日蓮聖人の展示もあります。

日蓮聖人のブースで最初に展示されていたのは、龍ノ口の法難。ことの結末を知っていても、目の前で まさに刀が振り上げられた瞬間は、思わず手に汗握ってしまいます。
そして、お次は塚原の三昧堂。「塚原問答」の様子が再現され、雪の積もる小さな小屋でお題目を唱える日蓮聖人に、村人や僧から一斉に怒号が飛びます。まるで、リアルな争いに巻き込まれたような気分……。
三昧堂を与えた地頭・本間重連は、日蓮聖人を“日蓮を殺すことは禁じられているが、勝手に死ぬのなら構わないだろう”と考えていたようです。だから、あえて過酷な場所を与えたのでしょう。そして、念仏を頼りに“来世に願いを託す”生き方を否定した異端者・日蓮に対する村人の反発が高まった際も、殺すことはできないため「法論で攻めよ」と提言したのですね。
日蓮聖人を攻めようと集まった大勢の僧侶や村人たちの声からは、今にも襲いかからんとするヒステリックな勢いが伝わってきます。
しかし、日蓮聖人は「今を生きる」ための教えである法華経の教えを理路整然と展開し、これを鎮めるだけでなく、ここで法華経の帰依者を増やしたというのですから、驚きますよね。それほどまでに人の心を掴む問答ですから、私たちには想像つかない程の説得力があったんでしょうね。できることならぜひ生で聞いてみたかったです。
この頃から日蓮聖人は次々に佐渡の信徒を増やし、ついには監視役だった本間重連まで改心したといいます。死んでも構わないと思っていた重罪人を後に崇めることになるなんて、あまりの展開に本人もびっくりしたでしょうね(笑)。

佐渡歴史伝説館では、能の大成者・世阿弥(のロボット)の舞も見ることができます。そう、世阿弥も室町時代に佐渡に流罪となっていたのです。このため、佐渡では今でも能が盛んなのだそう。
日蓮聖人や世阿弥など歴史に名を残す様々な人物がこの小さな島へと流されたことで、新たな信仰や文化がもたらされたんですね。しかも、独自の系譜によってその文化が現在までしっかりと受け継がれているなんて、佐渡って面白い!

興奮を残して階下に降りると、お土産屋さんと煎餅工房が。あたりにふんわり甘い匂いが漂っています。「ハイ、試食どうぞ。卵のお煎餅です。展示、結構立派だったでしょう?皆さん驚かれるんですよ」と渡されたのは、その名も「太鼓判」。素朴で懐かしい味でした。

実物大の人形が目の前で動く
展示は、期待以上のクオリティ。
迫力あります!

手間ひまかけた、美味しさの秘密

ここで、ちょっと休憩を。小腹がすいたので、地元で人気のパン屋さんを訪ねてみました。店内には、たくさんの種類がズラリ。地元の佐渡乳業さんが作っている大人気の「佐渡バター」を使ったパンも。どれもお手頃な値段で、つい目移りしてしまいます。メープルブレッドを頬張ると、素朴な甘みがふわっと広がって、美味しい!!朱鷺がデザインされた佐渡牛乳と一緒に味わえば、気分はもうすっかり佐渡っ子?!
お腹もいっぱいになったところで、秋晴れのスカッとした青空と真っ青な海を思う存分楽しみながらしばし海岸線をドライブ。伊藤屋のご主人に教えてもらった棚田を目指します。

意外にも田んぼは、海のすぐそばにありました。山の上まで登ってみると、眼下に絶景が広がります。
「田んぼと海がキレイに見えるでしょ。時々都会から手伝いに来てくれる人たちも皆、この景色には驚くねえ。ここで作業していると、気持ちがのんびりしてくるんだよ」と声をかけてくれたのは、農家の三國さん。三國さんのつくるコシヒカリは、日本全国にファンがいるそうです。
「ここのお米は、朱鷺と共生するために、農薬を半分に減らして朱鷺の餌になる田んぼの生き物を殺さないようにして作ってるから、その分甘みと香りが豊か。もちろん手間は増えるけど、自分の家族に食べさせるのにも安心だし、作ってよかったなあと思ってるよ。もちろん今では朱鷺も増えて、ここでもときどき見かけるようになったね」
大きな声で楽しげにお話をしてくださった三國さん。こんな風に朗らかに自然と共生できたら、小さな悩みなんて吹き飛びそうな気がします。

旅で出会った方々ののんびりとした笑顔や、惜しみなく手間をかけた美味しい食べ物、そして雄大な山と海に心の中で別れを告げ、佐渡の旅を終えました。

パンもお米も、共通しているのは
“余計なものを使わない”
シンプルさと、実直さ。
美味しいものって
こうやってできるんですね。

日蓮聖人が苦難を乗り越えた“秘密”をひとつ知りました!

前回は日蓮聖人の強靭な精神力にただただ感服するばかりでしたが、今回の旅ではそんな日蓮聖人を支えた人間味溢れる人々の存在を知り、少し安心しました。なぜなら、佐渡での日蓮聖人を知れば知るほど、まるで人間離れしていくような印象があったから。でも本当は、普通では乗り越えられない境遇を“行く先々で出会う人々の熱い思いと共に”乗り越えていったんですね。
それほどまでに人を惹きつける日蓮聖人という人物に、ますます興味が湧きます。
そして、佐渡という土地も、とても興味深かったです。独自の文化、豊かな自然、手間を惜しまず作られた美味しい食べ物。佐渡には、都会では“贅沢”とされる豊かさが、当たり前のように存在していました。 ぜひまた訪れたい場所です。

旅のしおり

今回うかがったお寺&お店

妙宣寺(新潟県佐渡市阿仏坊29)

8:00~16:00

世尊寺(新潟県佐渡市竹田643)

 

ご縁の宿・伊東屋(新潟県佐渡市真野新町278 TEL 0259-55-2019)

朝食付プラン6,300円~
http://www.itouyaryokan.com/

佐渡歴史伝説館(新潟県佐渡市真野655 TEL:0259-55-2525)

8:00~17:30 入場料:大人700円

パン:喜昇堂 佐和田店(新潟県佐渡市八幡1156  TEL:0259-52-4516)

7:30~19:00 メープルブレッド120円/他多数

米:片野尾とき舞株式会社(新潟県佐渡市片野尾108-1 TEL:0259-29-2190)

※お米の直接販売はしていません
棚田は上記住所付近にあります。