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笑顔と出会う寺めぐり

第6回

第6回

日蓮聖人の願いが棲む地、
身延山久遠寺への旅!

 激動の半生を過ごした後、日蓮聖人が亡くなる直前までの約9年を過ごした地が、身延山(山梨県南巨摩郡)でした。今回は“法華経の聖地”といわれる身延山と、総本山・久遠寺をじっくり見てまわります。

 

“仏の道”の入り口・総門から門前町へ

ある秋晴れの気持ちの良い日、山梨県の南部に位置する身延山を訪ねました。身延といえば、日蓮宗の総本山・久遠寺のある神聖な場所。これまで、千葉・鎌倉・佐渡と旅してきましたが、今回は一層期待が高まります。

まず出会ったのは、身延山の入り口にある「開会関」という扁額が掲げられた総門。 「開会関」とは、「一切の人々は法華経の信仰によって仏になる」との意。つまり、この門を入ることで、仏の世界に入ることを示しているそうです。

総門を経てしばらく行くと、約1kmの賑やかな参道・ 「門前町」が待っています。まだお参りもしていないのに、ふらふらと立ち寄ってしまったのは、甘養亭さん。久遠寺の行事やお正月用のお菓子を供している“身延山御用達”の和菓子屋さんです。人気は、身延定番のお土産・みのぶまんぢゅう。素朴で、ホッとする味わいが魅力です。その他も様々に揃う甘味を試食しつつ、ご主人・池上さんとお喋りを楽しみました。
「日蓮宗総本山の門前町だから、この辺りは毎朝どこからかお題目が聞こえてくるんだよ。俺も、久遠寺の朝勤にはよく行くよ。
菩提梯って長い階段があるんだけど、しんどいんだよね、これが。息があがっちゃう。でもそうやって息を深く吸えば、久遠寺に満ちている“法華経の空気”を胸いっぱいに吸えるような気分になるんだ。朝一番は空気も清々しいし、とにかく気持ちがいいよ。それに、朝勤に行くと『御経葩』っていう葉っぱの形をした紙をもらえるんだ。俺は、これを集めて家族の棺に入れてあげたくてさ。お花入れるより、自分の足で集めた御経葩を入れてあげるなんて、なんだかいいじゃない?」

軽妙な語り口で、信心深いエピソードを聞かせてくれた池上さん。そんなにいいことづくめなら、私も朝勤に参加してみようかな?御経葩、ぜひもらってみたいです。

お土産通りのような印象の
門前町ですが、饅頭だけで
なく、お経や仏具の専門店
もあって面白い!

悟りへの道のりはやっぱり険しい?!

次に現れたのは、立派な三門。普通は「山門」ですよね。実はこれ、涅槃(悟り)に至るには「空・無相・無願」の三解脱門を経るという仏教の教えにならっているそうです。つまり、本堂を涅槃に見立てて、そこへ至るために通る門だから「三門」なんですね。
三門に安置されているのは、仁王さま。“健脚の神”とも言われ、足の病を治すというご利益で知られるそうです。よく見ると、三門の傍らには参拝した方が御礼に供えた草履がたくさん並んでいました。その横にあるのは、祈願成就のためにお百度参りをする人が回数を数えるための金札。お百度参りの数を数えるアイテムなんて、初めて見ました!さすが“聖地”ですね。

三門をくぐった途端、空気が変わるのを感じます。重く湿った山の空気は、とても神秘的。
参道の右手には、宮沢賢治の碑が。実は、彼は熱心な日蓮宗の信徒。有名な「雨ニモマケズ」が書かれていた手帳には、お題目とお曼荼羅も記されていたそうです。

続いて目前に現れたのは…、先の見えないほどの長い石段。これは“悟りにいたる階段”の意で「菩提梯」と呼ばれています。287段あり、お題目の「南無妙法蓮華経」になぞらえ、7区画に分かれているそうです。緩やかな回り道もありますが、子供もお年寄りも階段を登っているので「よし私も!」と張り切って登り始めました。しかし、1段が30cmくらいあるため足をほぼ直角に曲げないと登れず、なかなか歩みが進みません。甘養亭・池上さんの言葉「深く息を吸う」のも納得。というか、登りきる頃には、呼吸が困難なくらいです。悟りの道は厳しいことを、身をもって実感しました…。

久遠寺境内に至る道のり
に仏教的な意味が隠され
ていて、興味深いです。
それにしてもキツイ!

いよいよ久遠寺境内へ!

苦しい菩提梯の道のりを経て、久遠寺境内に到着。
境内を案内してくれるのは、久遠寺職員・望月さん。お坊さんではなく(なんと、元消防署職員!)、好きが高じて案内人になったというプロです。
「久遠寺には見所も多いですし独特の雰囲気もありますから、観光や癒しを求めてたくさんの方々がいらっしゃいます。もちろん、日蓮宗に限らず様々な信仰をお持ちの方々が訪れますから、私はいつも『今日は宗派を超えてお題目を唱えて、どうぞご利益をいただいて帰ってくださいね』とご案内しているんですよ」。
確かに境内は、子供から大人・さらに海外の方まで、様々な人で賑わっています。皆さん、日蓮宗の総本山の参拝だけではなく、この場の神聖な雰囲気を味わいに来ているのかもしれませんね。

「身延山は、鎌倉時代に日蓮聖人によって開かれたお山で、久遠寺は日蓮宗の総本山。日蓮聖人は、この辺りの地頭・南部実長(波木井公)の招きで身延へと入山しました。そして、約9年をここで過ごし、法華経布教に励まれたということです。しかし病に侵され、湯治に向かう途中、今の東京都池上の地で61歳の生涯を終えました。

久遠寺の住職を法主といいますが、今の法主は92世。この長い歴史の中で、久遠寺は度々大きな火災に見舞われています。特に明治8年の大火では、約150棟ある内、約140棟が焼けたといいます。ですから本堂や祖師堂などすべて、その後に再建されたものです。五重塔は特に新しく、復元建立は2004年。焼失してから、実に約 130年の年月を経ています。やはりこれくらい大きなお寺さんだと、一度焼けてしまえば簡単には復元できないんですな。」

本堂に入ると、まず目をひくのが加山又造による大きな龍の天井画。
「龍は、法華経を信仰する者の守護神といわれています。加えて、水を司る神ですから、火災防止の意味もあるようですな。
そして本堂の隣にあるのが祖師堂。こちらは日蓮聖人をお祀りしているお堂です。“聖人の魂が棲む”という意の「棲神閣」という扁額が掲げてあります。
ほかにも境内には、日蓮聖人の骨が収められた御真骨堂や、いわゆる“スポンサー”だった波木井公を祀った開基堂、全国の信徒のお骨を安置した納牌堂などもあります。さらに、久遠寺は日蓮宗の僧侶の修行場でもありますから、仏教を学ぶ大学や僧の修行のための道場などもあるんですよ」
ひとつひとつの建物に大切な意味が込められていて、じっくり見ているとあっという間に時間が過ぎていきます。

さすが総本山!
見どころがとても多い
だけでなく、お山全体
に荘厳な雰囲気が漂っ
ているようです。

身延山・山頂にあるのは“親を思う場所”

続いて、ロープウエイで身延山の山頂にある奥之院へ向かいます。日蓮聖人が度々登っていたという身延山は、標高1153m。かなりの距離がありますが、ロープウエイならたった7分で到着!とてもらくちんです。

山頂の展望台から見えるのは、大パノラマの見事な景色。日蓮聖人はこの山頂へと度々登り、故郷の千葉県小湊の方角を眺めながらご両親を追慕したそうです。法華経布教のために激動の人生を送ってきた日蓮聖人ですが、その心には絶えずご両親への感謝の気持ちがあったんですね。

展望台の奥には、奥之院思親閣があります。お堂には「知恩報恩」の文字が。これは恩を知り、恩に報いるという、晩年の日蓮上人の想いがこもった言葉なのだそうです。お堂の横にたくさん並んだ絵馬には、ここを訪れた参拝者が親の健康や感謝の思いを込めた言葉が綴られていました。

境内には、日蓮聖人が植えたという古い杉が全部で4本あります。それぞれ、母、父、恩師、立正安国への思いが込められているそう。どれも立派な古木です。約700年も前に日蓮聖人が植えた杉の木の実物が目の前にあるなんて不思議な気分ですね。

行きはロープウエイであっという間に山頂に着きましたが、ここへ通った日蓮聖人の足跡を辿るため、帰りは約5.5Kmのハイキングコースを歩いて下山することにしました。しかし下山とはいえ、約2時間の道のりは予想以上に長く、傾斜がきつかったため、運動不足の私の膝はガクガクに。ロープウエイがいかに便利かということを実感しました…。本当に50代の日蓮聖人は度々この道のりを登っていたんでしょうか?! 昔の人だから足腰が強かったとはいえ、やっぱり相当根性のある方のようです…。
そんな下山の道すがら心を和ませてくれたのが、一帯が天然記念物に指定されている、「千本杉」という杉の古木のある場所。杉は、大きいもので高さ50mにもなるそう。差し込む光の筋の美しさに、しばし時間を忘れて見とれてしまいます。この美しい景色は、CMなどのロケ地としても活躍しているでそうすよ。

思親閣は、いわば親を思う地。
普段は照れくさくて言えない
親への感謝の言葉が
自然に胸に湧き上がります。

“法華経の聖地”身延の雰囲気を満喫しました!

身延山や久遠寺を訪ね印象に残ったのは、やはり「さすが総本山!」という荘厳な雰囲気。普段過ごしている場所にはない、神秘的な空気に包まていく内に、まるで全身が浄化されているような気分になりました。まさしく“パワースポット”です。日蓮聖人も、自然に囲まれた身延の雰囲気に何か惹かれるものがあって、この地を愛したのかもしれませんね。
そして身延は、境内だけでなく参道から奥之院まで、とにかく見どころが豊富でした。なおかつそれぞれに仏教的な意味が込められているので、知れば知るほど興味深い!宗派を超えて多くの人が訪れるのも頷けます。
今回は見どころを巡るのみ(山下りは体験しましたが…)でしたが、次回は実際に久遠寺の朝勤などを体験したいと思います!

旅のしおり

久遠寺(山梨県南巨摩郡身延町身延3567 TEL 0556-62-1011(代))

http://www.kuonji.jp/index.htm
※朝勤は、誰でも参加可能。4月~9月/午前5時30分開始 10月~3月/午前6時開始

奥之院 親思閣(山梨県南巨摩郡身延町身延4223 TEL 0556-62-0686)

http://www.kuonji.jp/okunoin/index.htm
※ロープウエイは20分間隔で運行。

甘養亭(山梨県南巨摩郡身延町身延3678 TEL 0556-62-0029)

http://www.kanyoutei.com/index.htm
みのぶまんぢゅう9ヶ入800円~
※ミニやジャンボサイズもあります。