宗務総長ご挨拶 令和5年
「お題目で紡ぐ未来」
令和5年の新春を迎え、謹んで新年のお慶びを申し上げ、本年が皆様にとって幸多き年でありますようお祈り申し上げます。
さて3年前に出現した、新型コロナウイルスによって世の中は様変わりし、私たちの暮らしも大きな変化を余儀なくされました。まだまだ安心できる状況ではありませんが、そのようななかでも宗門では昨年、中止となっていた多くの行事を久しぶりに再開し、新型コロナウイルスに対する新たな知見を得ながら、徐々に歩みを進め出しております。
この未知の感染病によって引き起こされた未曾有の事態に立ち向かうべく、世界は心を一つにしたかに思われましたが、その流れに水を差すように、世界各地で紛争が起こり、今なおその状況に終わりは見えません。疫病によって尊い生命が失われていく無情さを目の当たりにしてきたにも関わらず、我々人間が自らの手でその生命を奪う事態が引き起こされていることに遺憾の意を禁じ得ません。
今、私たちに求められることは、物事を諦(あきら)かに見据えることだと思います。ここ数年、濁末(じょくまつ)の世において翻弄されている私たちは、心の安寧を脅かされ苦悩から逃れようと躍起になるあまり、物事の本質を見失ってしまっているのではないかと危惧しています。我々を取り巻く環境は、時々刻々と変化いたしますが、私たちが尊ぶべきものは不変かつ普遍であります。
宗祖・日蓮聖人は、その曇り無き眼で末法の世を見つめ、人々が正(ただ)しく生きるためには、法華経という最上の御法(みのり)を心の礎とすることであると説かれました。宗祖の末弟たる私たちは、常に宗祖のお姿に倣い、より良き世界のためにこの身を賭していかなければなりません。
宗門といたしましても、この使命を全うすべく、堅実かつ綿密な計画を立て、「功の成るは成るの日に成るに非ず。蓋(けだ)し必ず由(よ)って起こる所有り」という言葉にあるように、日々地道に弛(たゆ)まぬ精進を重ねて参る所存です。
僧侶及び檀信徒の皆様におかれましても、お一人おひとりが、それぞれのご家庭の中で信行に励まれ、ご自身の周囲にある、あらゆるいのちに合掌し、敬うことで、物事を諦かに見定めていただければと存じます。
そして何よりも、お題目を縁として私たちに伝えられた尊い御教えを、次世代にも確実に引き継ぎ、これからも僧侶と檀信徒が一体となって歴史の糸を紡ぎ続けていただきますよう切にお願い申し上げます。
結びに、皆さまが心豊かに安穏な社会に向けて力強く歩まれることをご祈念申し上げ、新春のご挨拶といたします。
合掌
日蓮宗宗務総長 田中恵紳