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日蓮宗メールマガジン6月号

「どう生きるか」

昨今、ネットやSNS上で大きな話題となった四コマ漫画がある。
漫画家・きくちゆうき先生の『100日後に死ぬワニ』という作品だ。
主人公のワニが、何でもない日常の些細なことで一喜一憂する姿が、可愛らしいタッチで描かれている。

一見すると、よくあるほのぼの系のどうぶつ漫画と思いがちだが、他の作品と大きく異なるところは、四コマ目の下に「死まであと〇〇日」との表記があり、話数を読み進めていくごとにこの数字が減っていくのである。
それはまさしく死へのカウントダウンであり、最終話である100日目、このワニはタイトル通り、本当に死を迎えることになる。

この作品は、作者のTwitterアカウントで1日につき1話更新され、最終話が近づくにつれ、ワニがどのような最期を迎えるのか、ネット上では大きな反響を呼んだ。
しかし、人間たちのそんな注目をよそに、自身が100日後に死ぬなどとは微塵も思っていないワニは、アルバイト先の先輩ワニに恋をしたり、親友のネズミと遊びに行ったりケンカしたり、ネット通販で数ヶ月待ちの商品を予約注文して楽しみにしたり、時には四コマすべて家でごろごろしていたりと、誰しもが共感できるような何でもない日常を見せてくれる。

ワニに死が迫っていることなど忘れそうになるほど温かくほのぼのとした気持ちにさせられるが、イヤでも目に入ってくる「死まであと〇〇日」の文字。
読み進めるうちに、読者の心情にはどこか心配気な緊張感も含まれてくる。
ネタバレになるといけないので最終話の内容は伏せておくが(ネット上で作者が全話無料公開しているので興味のある方はご検索ください)、ついにワニの死を見届けた時、読者の心には、感動とともに「死は本当に訪れる」という重いメッセージが突き付けられる。

日蓮聖人は『妙法尼御前御返事』の一節において、
「まず臨終の事を習ふて後に他事を習ふべし」と申された。
人はいつ死を迎えるかわからないものであるから、まずは臨終のことをわきまえて、それから他のことを考えなさいという意味である。

言われなくてもわかっているよ、と思うかもしれないが、明日自分が死ぬかもしれないと本気で考えて生活している人が果たしてどれだけいるであろうか。
おそらく、自分の人生はこれからもまだまだ続いていって、その最終ゴール地点に死が待っていると思っている人がほとんどであろう。

もちろん、少しでも長生きしようと心掛けたり、将来を見据えて物事を計画するのは、生きていく上で必要なことだ。
ただ、そればかりにとらわれて「死」から目を背けるのは違う。
大切なことは、自分が臨終の瞬間を迎えた時に、後悔のない人生だったと思えるように生きることである。

作者のきくちゆうき先生は、友人を事故で亡くした経験を持ち、“いつか必ず訪れる『終わり』を意識することで、生き方をより良い方向へ変えていけるのではないか”との思いからこの作品を描いたという。

ワニも人間も、寿命は違えど、いつか死が訪れるのは同じ。
『いつか死ぬのはわかっているけど、まだまだ先の話だろう』ではなく、「死」を身近なものとして捉えることで、今ある「生」をより大切にできるのではないだろうか。
それが何でもないありふれた日常であったとしても、「終わり」を意識することで、1日1日の輝きはぐっと増してくるはずである。
『生きた時間』も大事だが、『生きた内容』を大切にして日々を過ごしていきたい。

【お知らせ】
日蓮宗宗務院伝道部より、今月の予定をお知らせ致します。
28日 いのりの日