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日蓮宗メールマガジン8月号

「ひこうき雲」

見上げる夏の青空に、シューっと伸びる一本の白線、ひこうき雲。

感染症の流行により、国内はもとより、世界各地の空を自由に羽ばたいていた飛行機は今、静かに翼を休めています。そのためか、ひこうき雲を見かける機会もすっかり減ってしまいました。

日蓮大聖人は身延の地にお住まいの9年間、毎日のように身延山山頂に登られました。そして、故郷である千葉県・安房小湊の方角に向かい、亡くなられたご両親様とお師匠様に手を合わされたのです。その御心の内は、同郷の光日房様に宛てられたお手紙の中に

「私は今、身延の地に住まいを置く身ではありますが、さすがに両親の眠る故郷は恋しく、吹いて来る風、立つ雲が東方からといえば、思わず庵を出て身に触れ、庭に立って見るばかりです。」(『光日房御書』)

との言葉に紡ぎ明かされています。

頬を撫でるこの風は、両親のお墓に触れてきた風だろうか。眼に映るあの雲は、故郷を眺めてきた雲だろうか…と、亡き人との繋がりをお感じになるそのお姿は、人を想うこころのあり方を私たちに示してくださっているようです。

私が生まれた時にはすでに他界していた曽祖父は、飛行教官だったと聞いています。会ったことが無いからこそ、親しみを込めて「ひいじいちゃん」とここでは記させてください。

終戦間近、ひいじいちゃんは不慮の事故により怪我を負い、職を退いた後は布団の上で日々を過ごしたといいます。そしてその病床には、特攻出兵が決まった教え子たちが挨拶に来ていたと、祖母が語って聴かせてくれました。

翼を失ったひいじいちゃんは、自慢の教え子たちが飛び立つ知らせをどんな気持ちで受け止め、見送ったことでしょう。未来ある若者たちに教え伝えた飛行技術が、そのような形で使われるとは思ってもいなかったことでしょう。想いを馳せると、胸の奥が締め付けられ、苦しくなります。

終戦75年となる今年。

オリンピックの歓声がこだましているはずだった夏の青空は、とても静かです。

その中にひこうき雲を見つけた時、私は手を合わせようと思うのです。

かつてこの空を飛び立ち、ひこうき雲とともに消えていった命を想いながら。

そしていま、感染症への不安の中で、様々な想いを胸に空を飛ぶ方々が、降り立ったその先でどうか無事に日々を過ごせますように、と。

頬を撫でる風、眼に映る雲は、あなたに何を語りかけてくれていますか?

想いを巡らせた時、必ず誰かとこころが繋がっているはずです。

【お知らせ】
日蓮宗宗務院伝道部より、今月の予定をお知らせ致します。
13日 お盆迎え火
15日 妙蓮尊儀忌
16日 お盆送り火
27日 松葉谷法難会
28日 いのりの日