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日蓮宗メールマガジン9月号

『美味しくものを食べる』

日本人が大好きなお漬物。その代表格といえば、黄色くてぽりぽりとした食感が特徴のたくあん漬けではないでしょうか。今回はそのたくあん漬けにまつわるお話です。

皆さんご存知、江戸幕府の三代将軍、徳川家光。彼は将軍ですから、毎日ご馳走を食べているはずです。ですが、それも当たり前になると飽きてくるようで、「何か美味しいものが食べたい」とこぼしました。なんとも贅沢な悩みですが、それを聞いた禅宗のお坊さん、沢庵(たくあん)上人は、「それなら私のお寺に来られるとよいでしょう。美味しいものを食べさせて差し上げます」と自分のお寺に招待しました。
後日、家光がお寺に到着すると、出迎えた沢庵上人は「将軍、ここでは住職である私が最高責任者です。あなた様が将軍であることは重々心得ておりますが、この寺では何とぞ私に従ってください」と釘を刺しました。美味しいものが食べられればそれでよいと思っていた家光は、深く考えずに「ああ、よいぞ」と約束しました。
さて、昼時になりました。家光はどんな食べ物が出てくるのか、期待して待っています。しかし、どれだけ待ってもその食事が出てきません。
午後1時頃になると、だんだんイライラし始めました。台所に家来を遣わして「まだか?」と問わせても、沢庵上人からの返事は「もうしばらくお待ちください」との言葉のみ。
2時頃、再び催促しましたが、それにも「もうしばらく」の返事です。
3時を過ぎ、空腹の上に長時間待たされ我慢がきかなくなった家光は「もう帰る」と言い出しましたが、すぐさま沢庵上人から伝言が入り、「最初にお約束していただきました。ここでは私に従ってください」と制止されました。これでは待たざるを得ません。
4時頃になって、ようやく食事が運ばれてきました。しかし、時間がかかった割に、別段これといったご馳走ではありません。香の物が添えらえた、ただのお茶漬けです。
ですが、極限までお腹を空かせていた家光にとっては、それは本当に絶品でした。彼はおかわりをして、それもぺろりとたいらげました。
「ああ、今までに食べたどんなご馳走よりもうまかった。和尚、礼を言うぞ。ところで、この香の物はなんじゃ?」
「そちらは禅寺に伝わります、大根のお漬物です。ですが呼び名がまだございません」
「そうか。それでは以後、これを沢庵漬けと呼ぶがよい」
家光は、その香の物に命名しました。今日、私たちが食べているたくあん漬けには、このようなルーツがあったのです(たくあん漬けの由来には他にも所説あります)。

『美味しいものを食べる』ことと『美味しくものを食べる』ことは、言葉は似ていますが意味合いは大きく異なります。
おそらく、昼時になってすぐに食事を出していたならば、家光がたくあん漬けにそこまで感動することはなかったでしょう。日頃からご馳走を食べ、舌が肥えた家光は、『美味しいものを食べる』ことにこだわっていました。そんな家光に沢庵上人は、『美味しくものを食べる』ことを身をもって教えたのです。
豊かな現代に生きる私たちは、ご馳走とまではいかずとも、美味しいものを簡単に食べることができます。ですが、美味しくものを食べているかと聞かれたら、どうでしょうか。
そしてそれは、食事に限らず、身の回りの至るところであてはまることであると思います。
何気ない日常の中にある、当たり前のような幸せに気付き、それに感謝する。それが法華経に説かれる『少欲知足』~欲少なくして足るを知る~の生き方であると思います。

【お知らせ】
日蓮宗宗務院伝道部より、今月の予定をお知らせ致します。

3日 日向上人会
12日 龍口法難会
17日 日親上人会
18日 池上御入山
20日 彼岸入り
23日 彼岸中日
26日 彼岸明け
28日 いのりの日