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日蓮宗メールマガジン6月号

「旅先からの便り」

私が小学生だった頃、学校の遠足は私たちにとって大きなイベントだった。300円までという制約の中で、どの菓子を買っておやつに持っていくか。母親の作ってくれる弁当が何なのか。前日から多くの楽しみと期待に満ちていた。

先生に連れられて在来線に乗り込みクラスの友達と知らない場所に行く。
ただそれだけで楽しい。
冒険が始まり大いにはしゃぎ、お弁当という宝箱を開ける楽しさも、厳選したとっておきの布陣のお菓子も披露し終わり、冒険も終わり。
行きと同じく先生に連れられて帰り道の在来線に乗り込んだ私は疲れて眠ってしまった。

在来線で眠り込んでしまった私が目を覚ました時、知っている人は誰もおらず、知らない駅名と見たこともない景色が車窓を流れているだけだった。

2、3駅そのまま車窓を眺めながら、ふと

「帰えらなきゃ 帰らなきゃ」

と軽くなったリュックを強く握りしめ強く思っていた。

立ち上がり電車を降り反対のホームの電車に乗ってからも

「帰えらなきゃ 帰えらなきゃ」

と一心に思っていた。

そこからは必死だったのかあまり覚えていないが、帰った先は自宅ではなく学校だった。

学校が近づくと

「帰えらなきゃ 帰えらなきゃ」

の呪文は消えて、

「叱られるよな」

と不安がよぎる。

一人とぼとぼ学校へ向かい、校門が見えてくると先生たちは勢ぞろいしていた。

意外にもいつも叱る先生たちからは

「よく帰ってきた よく帰ってきた」

と声を掛けられて、全く叱られることはなかったが、その代わり両親からはこっぴどく叱られた。

挙句の果てには母に泣かれてしまい、私としては苦い思い出だ。

迷子になった時点で電話の1本でも入れておけば違った結果だったかもしれない。

そんな幼い時のしまっておきたい苦い思い出を思い出す機会があった。

750年前に日蓮聖人が富木常忍さんに宛てた手紙「富木殿御書」を拝見した時だ。

日蓮聖人が鎌倉から身延に着かれた時に書かれたお手紙で、身延山の様子や無事着いたこと、それが手短に一枚の紙に書かれている。

拝見した時は5月17日。そのお手紙が書かれてからちょうど750年後、身延山久遠寺では日蓮聖人が身延に着かれた事を記念し、ご入山の法要が営まれ、私はその法要に参加をした。

時間が少しあるからと、久遠寺の宝物館で特別展示されている「富木殿御書」を拝見しにいった。

750年前の手紙というだけで感慨深いものだが「御真筆」とは、いわゆる日蓮聖人直筆のものだ。もちろん貴重なものであるのは確かであるが、当然昔の文字、書体なのでそのままは読めない。
読めないけれどそのお手紙を拝見した時に、字の書体の柔らかさなのか全体の印象なのかは分からないが、「優しさ」を感じた。

言葉ではなかなか言い表せないが一言で言えば

「優しさ」

その優しさを感じたと同時にふと思い出したのが母の泣き顔だった。

「心配かけてごめんね もう泣かなくていいよ」

今、母が悲しんでいるわけじゃないのに小学生のあの時に急に呼び戻された気持ちになり、心の中で言っていた。

「御真筆」を拝見することができる機会は非常に少ない。文化財保護の観点から展示できる場所や期間が非常に限られるためである。

身延山は6月12日から18日までの間、開創750年の記念事業を行っている。

この機会に是非、身延山に足を運んでいただきたい。
そして「御真筆」を目の前にして感じていただきたい。

きっと心の奥底にしまい込んだ何かと出会えるきっかけになるのではないだろうか。

【お知らせ】
日蓮宗宗務院伝道部より、今月の予定をお知らせ致します。

15日 身延山開創750年(12日~18日、於:身延山)
25日 日朝上人会
28日 いのりの日