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日蓮宗メールマガジン12月号

「文字は心の姿」

私は地方にある小さなお寺の副住職を務めさせて頂いているが、お寺という役割柄、筆で文字を書く機会が多々ある。塔婆や祈願札、御朱印を書くためである。昨年まではこれらの書き物はすべて住職が書いていたが、今年からは塔婆に限り、私が書かせて頂くことになった。住職の指示によるものである。

自分で言うが、私はお世辞にも字が上手いとは言えない。お経も読める。正座も強い。仏具もひと通り扱える。お説教も苦手ではない。人には誰しも得意・不得意があると思うが、字の下手さこそが、私の僧侶としての最大のコンプレックスなのである。

そんな私が塔婆書きを任されたのだから、苦労したのは言うまでもない。まず古新聞に何度も何度も練習書きをし、「よし!」と思えてからいざ本番の塔婆に書くのだが、これがまったく思い通りに書けない。
住職の書いた塔婆を手本にしながら真似て書いても、住職のように上手には書けない。

しかし、年回忌の法事は毎日のように行われるため、私の書いた塔婆をお檀家さんに手渡さなければならないタイミングは容赦なく訪れる。こんな不格好な塔婆がこのお檀家さんの家の墓に建てられる・・・そう想像すると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。今まで一度も納得のいく塔婆を書けたこともないし、自信を持ってお檀家さんに手渡せた試しもない。
「住職め、俺の字が下手なことを知っていてどうして俺に書かせるんだ」という住職へのやるせない怒り半分と、「いや、いつかは自分も立派な塔婆を書けるようにならなければならないんだ」という戒めが胸の内に同居し、根気強く日々塔婆を書き続けた。

そうして私の塔婆書きキャリアがもうすぐ一年になろうというつい先日、驚きの出来事があった。
とあるお檀家さんの法事が終わり、いつものように自信無さ気に塔婆を手渡した時、そのお婆さんがこう言った。
「あら、前回の法事の時に頂いたお塔婆と字が違うようだけど、これは副住職さんが書かれたのかしら?・・・ご住職さんの字も良いけれど、副住職さんの字も素敵ね。なんだか、凄く大事に書いてくださっているのが伝わって、とってもありがたいわ。」
塔婆を書き始めて一年弱、初めて頂いたお褒めの言葉であった。涙が出た。

確かに私は字が下手な分、せめて少しでも心を込めて書こうと、一字一字丁寧に書くように心掛けていた。それでもやはり、書き上げた塔婆はあまりにも稚拙で、目を覆いたくなるような出来だった。
しかし、字の上手・下手だけにとらわれていたこの一年、初めて言われた「ありがたい」という言葉は、私の心を大きく救ってくれた。

日蓮聖人は『諸宗問答鈔』という書物の中で、
「文字はすべての人々の心を顕わしたものである。したがって、人の書いたものによってその人の心の内を知ることができるのである。」と書き遺された。

急いで書けば、字も雑になる。大切に書けば、字は丁寧になる。
日蓮聖人の教えの通り、心を込めて書けば、相手もその心を感じ取ってくれるのだと信じ、私はこれからも塔婆を大切に書き続けていく。

【お知らせ】
日蓮宗宗務院伝道部より、今月の予定をお知らせ致します。

6日 月例金曜講話
8日 釈尊成道会
25日 宗務院御用納め
28日 いのりの日