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お坊さんのお話

山本光明常任布教師法話「いのちに合掌」H24/3/28

山本光明常任布教師プロフィール:

【得意分野】
宗門メインテーマ(立正安国論、但行礼拝、いのちに合掌等々)に対応する。
高座説教は古典的な傾向が好きです。

【コメント】
高座説教、テーブル法話、講演、人権問題講演など、テーマを頂くとそれに対応できる。フットワークは軽いです。依頼されたことには全力で対応したいです。

「白露の己が心を玉にしてもみじに置けば紅の玉」
「白露の己が心を玉にしてもみじに置けば紅の玉」

自分の心をひとつの白露と例えて考えてみた時に、その白露がちょうど赤く染まった紅葉の上にがぽつんと落ちた時には、きれいな紅色に染まって自分の目にその白露の光をみせてくれる。
しかしながら、仔細にそのもみじの葉を見てみますると、その紅葉の葉には茶色に染まったところもあれば、虫に食われて穴の空いているところもある。赤いところに白露が落ちた時には赤く、紅色に染まり、茶色に染まったところにその白露が落ちた時には茶色に自分の目に見せてくれる。
しかしながら、ちょうど穴の空いているところに上から白露が落ちたとするならば、葉にとどまることなくして下の泥にまぎれてしまう。自分のこの、心というものもこの白露のように明るく紅色にも染まり茶色にも染まり、そしてまた泥水の中にもまぎれてしまうものではないでありましょうか。

自分の近くの小学校に磨光小学校という学校があります。まこうの「ま」は磨く、「こう」は光と書きます。まあ磨けば光るとも読める校名でありますが、その磨光小学校の3年に伊藤ゆき子ちゃんという女の子がおります。誠に元気がよいクラスでも人気者の彼女でございますが、お父さんは伊藤敏明さん38歳、お母さんは裕子さん35歳。誠に親子仲良く暮らしております。

先年おばあさんを亡くされておりましたけれども、本当に3人の親子は仲良く暮らしてございましたが、ただ一つ心配なことが、このゆき子ちゃん周りの子供と比べて見た時に少し発達が違っていたようでありました。

3歳の頃になりますると、まずお母さんが「ねえあなた、少しゆき子、周りの子供と比べてみた時にちょっと違うような気がするんだけれど」

「そうかねえお前、私にはそんなふうには見えないけれども」というような会話が幾度かなされた挙句、

「ねえあなた、いっそお医者さんに相談してみましょうかしら」

「あー、お前が気になるのならばそれもよかろう。一度、先生に相談してみたらどうだ」
と言うので病院に行って先生に色々と調べてもらって診てもらいましたところ、

「お母さん、確かにお母さんが心配するようにゆき子ちゃんは少し他の子供と比べた時に発達が遅いようですね。体の方も脳の方も少し他の方とは…。まあそんなに気にする程ではありませんから、もう少し様子を見てみましょう」
というので、それから1年、2年と様子を見ながら元気なゆき子ちゃんを育てておりました。

ちょうどその年が小学校に入学するという年になり、学校ではあらかじめゆき子ちゃんをオオルリ学級に入れようということで親御さんの敏明さんと裕子さんと相談を致しました。

「なんとか先生、普通学級に入れて他の子供と一緒に勉強させてやってくれませんでしょうか」

強い両親の、お父さんお母さんのその希望に、学校の方でも「それならば」というので、普通学級で勉強することになりました。みんなの中に入ってやはり学校生活は楽しいものでありました。

1年、2年、3年と学校生活をして参りまして、やはり一番楽しみであったのは運動会でありました。ゆき子ちゃんはその運動会の中でも駆けっこが一番好きでありました。
しかしながらゆき子ちゃん、他の子供と比べて少し走るのが遅かったものですから、いつ走っても一番ビリでした。
1年の時も2年の時もビリでありました。それでもみんなと一緒に駆けっこをするというのが本当に楽しみで、楽しくて楽しくて仕方がないゆき子ちゃん。3年生のその時には本当に前の晩からはしゃいで、その日になりますと

「お父さん、行ってきます」
という元気なゆき子ちゃんの声に

「随分ゆき子、今日は元気がいいね、にこにこしてるね、何かいいことでもあったの」

「うん。昨日、運動会の練習の時に隣で走ってたあけみちゃんが「ヨーイドン」と一緒に走った時に、途中で転んだの。そして足くじいたの。だけども明美ちゃん、絶対運動会に出るって言うから、ゆき子ね、きっと明美ちゃんを抜いて7番目になれるかもしれないの」

「あーそうか、それでニコニコしてたのか。がんばんなさいよ。お父さんも仕事片付けたら応援に行くからね」
と言って、元気に送り出す。お母さんも弁当をこさえて後から学校の方に参りました。

競技が進んでいって、3年生の徒競走の番になり、1組目、2組目が終わって3組目のゆき子ちゃんの番になりました。それでは位置についてヨーイドンというピストルの合図とともに8人の子供たちがいっせいにパアっと走り出しました。

その日は仕事の都合でお父さんはついに運動会に来ることが出来ませんでした。

運動会が全て終わって、お母さんと一緒にゆき子ちゃんは手をつないで、ニコニコ、ニコニコしながら帰ってきました。お父さんはそのゆき子ちゃんのにこにこしている顔を見て

「おー、ゆき子どうだった、駆けっこは。7番目になれたか」

「ううん、8番目」

「8番目か」

「あなたね、ゆき子ったらね、こうだったんですよ。
ヨーイドン、というピストルの音と一緒にみんなが走り出した。途中まで行ってゆき子が明美ちゃんを抜いたかと思った時に明美ちゃんがキャーと言って転んでしまったの。
そしてなんとか先にゆき子は行ったんだけれども、さっと立ち止まって、振り向いて明美ちゃんのそばに行って耳元でこちょこちょこちょっと何かしゃべったかと思うと、明美ちゃんを起こして手を繋いで一緒に走り出したの。
ゴールの所まで来るとゆき子ったらねえ、明美ちゃんの背中をぽんっと押して明美ちゃんを先に入れてあげたの。で、ゆき子はやっぱり8番目だったというわけ。
そのゆき子ちゃんのすることを見て校長先生がまず手を叩いてくれたの。「ゆき子ちゃん偉い、ゆき子ちゃん偉い」って。
その校長先生の声と拍手につられて他の先生方がやはり拍手をしてくれて、「ゆき子ちゃん偉い、ゆき子ちゃん偉い」
その先生方の声にまた周りの子供たちも拍手をして、「ゆき子ちゃん偉い、ゆき子ちゃん偉い」の大合唱になったのよ、あなた」

「そうか、それは偉い8番目だったな、うん。で、ゆき子、明美ちゃんに何て言ったの」

「うん、明美ちゃんの耳元にね、『痛いの痛いの飛んでけー、南無妙法蓮華経』って言ったの」

「あー、そう言ったのか」

「うん、だって死んだおばあちゃん、ゆき子が小さい時に転んだら、『痛いの痛いの飛んでけー、南無妙法蓮華経』って言ってくれたもん。そしたらゆき子、全然痛くなくなったんだよ。だから同じことを明美ちゃんにしてあげたの」

「そうか、ゆき子偉いぞ、偉いぞゆき子」

このゆき子ちゃんの心は自分共もどなた様でも一様に持っている心であります。それは人を敬うという心、そしてそれはまた、まさに合掌の心、そのものであります。敬いの心を持ち、合掌の心を持って、お題目を唱えて、私たちは安穏な社会づくり、人づくりに努めて参りたいものです。