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心の散歩道

心の散歩道

「気をつけて」

インドの仏跡参拝行程のなかに、飛行機やバスを使いますが、列車の中が一番その国の雰囲気を感じることができます。

バイシャリー特急列車に乗って、五時間の移動です。団員四十六人の移動ですから車両の中を小グループにわけます。一番注意を必要とするグループに添乗員が付いています。

やっと自分の座席に座って、車内を見渡すと、日本人はこのグループだけで、彫の深い顔のインドの人々が興味深げに、こっちをじっと見ています。にっこり笑うと、向こうも笑い返します。

夕食時なので、弁当を配ってくれます。ふにゃふにゃの段ボール箱の中に、六枚切りのパン一枚、ゆで卵、骨付きチキンの唐揚げ、銀紙に包んだ茹でたジャガイモ、六㌢ほどのバナナなどが入ったのを受け取り、早速、持参のお酒や柿の種、さきイカを取り出して、酒盛りが始まります。

「お酒を飲んで大きな声を出さないで下さい。隣にシーク教の聖者が乗っています。怒られますから」と添乗員さんが注意します。

どういうきっかけか、ニッコリ笑ってくれた靴屋さんと洋服屋さんなどが、いつのまにか酒盛りに参加しています。来日したら、寄って下さいと名刺を交換します。来ることないだろうし、来たら家内に怒られるだろうなと、顔が浮かびます。持参のボトルも何本か空になり、座席も変わって同じグループの仲間のようになっています。

ラクノー駅が近付きました。「荷物に気をつけて下さい」何回目かの注意をガイドさんが言います。荷物を確かめ「サヨナラ」と言いながら靴屋や洋服屋を見ると、あちらの方も自分たちの荷物を気に回していました。

同じボトルを空けてうちとけていても心の底からはまだ友だちにはなっていなかったようです。