心の散歩道

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座席

インドに仏跡を訪ねました。

レンガ積みの壊された仏跡を、ガイドさんが説明してくれていますが、暑い日差しが真上からふりそそぎ、連日の強行日程で、かなり疲れがたまっている団員一同うわの空で聞いています。

「インドの本当の暑さはこんなものではないんです。熱波がきたときなんかは、何百人単位で人が死にます。でも皆さんも暑いでしょう。あの樹の下に行って下さい。あそこで説明をいたしましょう」とうんざりした顔を見てガイドさんが言いました。樹の下に入ると、直射日光が当たらないだけ涼しくなりました。

両腕にたくさんの数珠を掛けて売っている数珠売りや、いかにも古いものだ、というように作られた土の仏像などを、まとわりついて売りつける土産売り、それを追い払う棒を持った公園の管理人(?)がまわりを囲んでいますが、樹の下には入りません。暑さになれているので、この程度では何ともないのか、あるいは観光客に涼しさを譲ってくれているのでしょうか。

仏さまは、人に慈しみの眼で、ほほ笑みを忘れず、やさしい言葉をかけ、心くばりをし、体で奉仕をし、座っているところを譲り、寝床を与えてあげなさい、財産がなくても、体でできる七つの布施行をしなさいと、教えられています。

日本では電車やバスの座席にシルバーシートを決めてある車両があります。お年寄りや体の不自由な人に、席を譲ってあげましょうという座席です。座席を譲って立っていても目的地には連れて行ってくれますし、運動をしていると思えばすみます。この座るところ、座席を譲りなさいという布施の行いは、日本では命までなくなることはありませんが、インドでは樹の下の涼しいところを譲って、暑い熱波の中に出ると、すぐに日射病になるような気がします。すぐにできるようで大変な、仏さまの教えの一つにふれることができました。