
願いどおり
サカエさんは友達から「さかちゃん」と呼ばれて、笑顔を絶やしたことは、ありませんでした。
叔父さんの家の養女になり、結婚して、一男二女の子供を授かり幸せでしたが、主人が44歳で亡くなりました。
38歳で後家になり、必死に働きました。子供たちもそれぞれ社会に出て、家庭を持ちました。
嫁に行った娘が子供を残して、33歳で急逝してしまいました。
主人が亡くなって、そこそこの信心はされていましたが、子供の亡くなったことから、毎月の信行会は欠かさず参り、修行されるようになりました。
お寺の団参旅行には欠かさず参加され、お参りするお寺では家族の安全を祈念されました。温泉に入り夕食の宴会では、衣装を持参して、好きな踊りを披露しました。
ここ何年かはお寺の行事、毎月の信行会だけに参られ、「信心と孫にやるお金は惜しくない。お祖師さまは、おかげをくださいます。毎月のお守りさまは守ってくださいます。死ぬときはお祖師さまの前でぽっくり死にたい」と願望されます。そして毎月のお守りを子供、孫、ひ孫と何十個とお受けになります。
岡山県で唯一の宗門史跡、西身延妙本寺で9月12日の龍口法難の日に行われる「妙本講」に参詣しました。
さかちゃんはお嫁さんの自家用車で、参詣しました。家族と孫夫婦、ひ孫も一緒に参詣していました。
大法要のあと、住職さんの挨拶を聞き終わると、最後に残ったさかちゃんは住職さんと握手をしました。
妙本寺音頭、松山踊りを踊っていたさかちゃんが踊りの輪から出て、知人と手を握りそのまま崩れ落ち、亡くなりました。病名は急性大動脈解離で、満90歳でした。
周りの人は、「ああうらやましい、こんな死に方をしたい」と言いますが、家族の心境は別です。