
日蓮聖人と歌舞伎
今年は日蓮聖人のご生誕から数えてちょうど八百年に当たります。これを記念してさまざまな行事が行われましたが、6月には東京の歌舞伎座で日蓮聖人を描く歌舞伎の特別公演も開催されました。残念ながらこの公演を観ることはできませんでしたが、実は江戸時代から日蓮聖人は歌舞伎の演目としてとても人気が高かったのです。
現在でも年末には忠臣蔵がテレビやお芝居でよく取り上げられますが、江戸時代には10月~11月は日蓮歌舞伎、11月~12月は忠臣蔵を行うのが、年末歌舞伎の恒例公演だったようです。
10月13日は日蓮聖人のご命日。江戸の町々の日蓮宗寺院ではこの前後に盛大な法要が行われます。殊に池上本門寺の御会式には現在でも数万人の参詣がありますが、当時も全国から大勢のご信者が繰り出していたようで、それを当て込んだ日蓮歌舞伎が10月には盛んに上演されていたわけです。
江戸時代のみならず、明治時代になってからも日蓮聖人の演劇は作られました。実は文豪森鴎外も日蓮聖人を題材とした歌舞伎の脚本を書いています。『日蓮聖人辻説法』という一幕物で、明治37年、東京歌舞伎座で上演されました。当時の演劇評を見ると「四月 歌舞伎座にて戦争劇『艦隊誉夜襲』を上演して不評。それと同時に、森鴎外博士作『日蓮聖人辻説法』を上演して、好評」とあります。この年の2月日露戦争の戦端が開かれたばかりという時期の公演でした。
これ以後も昭和初期頃まで浄瑠璃や歌舞伎では、日蓮聖人にまつわるエピソードを脚色した「日蓮記物」と呼ばれる演目が上演されて人気を集めていたようです。
今回の日蓮歌舞伎は残念ながら見逃しましたが、明治時代に書かれた森鴎外の『日蓮聖人辻説法』などは観てみたいものです。